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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)536号 判決

原告 第一相互銀行

理由

《証拠》を綜合すれば、前掲原告主張の請求原因一、二の各事実が認められ、右認定に反する証人岡崎覚三郎の証言は措信するに足らない。

次に、本件建物がもと覚三郎の所有であつて、これに本件登記がなされていることは《証拠》により明らかである。

しかしながら、証人大森三郎の証言によると、訴外会社は昭和四一年一一月二五日に不渡を出して倒産していること、その直後に原告銀行の係員の大森三郎が、訴外会社で、同会社の代表取締役の倉田昇、同人の実兄で原告と訴外会社間の取引につき連帯保証人となつている倉田赤次郎及び覚三郎の三名と訴外会社の倒産によるその債務の返済方法につき協議をしていること、訴外会社は勿論右昇や赤次郎にも債務返済の資力がなかつたこと、右大森が、本件登記のなされたことを知り、直接被告に会つてその間の事情をきいた際、被告は本件建物は覚三郎の所有である旨を答えていることが認められること、また、前記のように本件登記は訴外会社が昭和四一年一一月二五日に倒産して間もない同月二八日になされていること、他方、被告が覚三郎の妻であることは当者間に争がなく、証人岡崎覚三郎の証言による、「公団から借入金を被告が支払つていることや覚三郎が昭和三五年頃から昭和四一年一一月本件登記をする頃迄の間にその営業資金として何回かに亘り合計一九〇万円位を被告より借用していたので、覚三郎は本件建物を五〇万円位に評価してこれを被告に売渡した。」というのであるが、その供述は必らずしも明確でないのみならず、右のような事例は、特段の事情がない限り、一般夫婦の間においては極めて異例に属し、容易に首肯し難いものであること等の諸事情を綜合考覈すれば、本件建物につき覚三郎より被告に対する売買を原因としてなされた本件登記は、結局、覚三郎において、原告からの保証債務の追求を免れるために、妻である被告と通謀してなした虚偽表示によるものと推定せざるをえず、従って、右の売買契約及び本件登記は、いずれも、無効のものといわざるをえない。(以下省略)

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